溶剤回収装置は、塗装や洗浄などの産業プロセスで使用された後の汚れた溶剤を回収し、再利用可能な状態に戻す装置です。化学工業や製造業、塗装工場、電子部品製造現場など、溶剤を使用する業界で広く利用されています。
溶剤回収装置で再生された溶剤は再利用できるので、新規溶剤の購入量を大幅に削減することが可能です。例えば、月にドラム缶40本分の廃溶剤を再生することで、年間約1,400万円のコスト削減が報告されています。(※)
そのほか、産業廃棄物の処理コストを減らし、環境負担の軽減も可能。国が定めたVOD規制への対応など、エネルギーの節約など、多くのメリットがあります。溶剤を削減する方法はいくつかありますが、回収した溶剤を再利用できるのは溶剤回収装置のみという点も大きな特徴です。
溶剤回収装置は、物理的または化学的なプロセスを利用して溶剤成分を分離・回収します。以下では、溶剤回収装置の主要な仕組みを解説します。
蒸留法は、使用済みの溶剤を加熱して蒸発させ、その蒸気を冷却装置(コンデンサー)で冷却・凝縮して液体に戻す仕組みです。汚染物質や不純物を除去し、高純度の溶剤を効率的に回収できます。
蒸留法での回収に適している溶剤は、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶剤、メタノールやエタノールを含むアルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤など。一般的に、沸点が250度以下の溶剤であれば、蒸留法による回収が可能です。沸点が150度以上の溶剤の場合は、真空蒸留法を用いることで低温で処理でき、溶剤の熱分解や酸化劣化を防ぎながら回収できます。
ただし、溶剤の種類や混入物によっては再生が困難な場合もあるので注意してください。例えば、ニトロセルロースを含む溶剤は発火の危険性があるため、蒸留法による再生は避けるべきです。
溶剤回収装置の吸着法は、揮発性有機化合物(VOC)を含む排ガスから有機溶剤を効率的に回収します。排ガスを吸着材に通過させた後、加熱した窒素ガスや水蒸気を流すことで、吸着した溶剤を脱着。脱着された溶剤を蒸気として回収し、冷却・凝縮することで液体状態で回収します。
脱着方法には、水蒸気を用いる方法や、加熱した窒素ガスを用いる方法(窒素脱着方式)があります。特に窒素脱着方式は、水溶性溶剤の回収や排水の大幅な減量が可能なので、環境負荷の低減に効果的です。
また、不燃性の吸着材を使用しており、脱着時に熱源を使用しないため、高い安全性が確保されます。
膜分離法は、微細な孔を持つ膜を通して、特定の成分のみを選択的に透過させる方法です。水と有機溶剤の混合物から水分を選択的に除去することができます。
特に、従来の蒸留法では分離が難しいエタノールと水、クロロホルムとメタノールなどの共沸混合物や、熱に敏感なアジ化ナトリウムの処理に有効です。通常の蒸留で高純度で分離することが困難な物質であっても、高純度の溶剤を回収できます。
溶剤回収装置によって溶剤の再利用ができるため、新規溶剤購入の必要がなくなり、原材料費の大幅な削減が可能です。使用済み溶剤を廃棄するための処理費用も減るため、長期的に大きなコスト削減が期待できるでしょう。初期投資はかかるものの、投資回収期間の短縮が見込めます。
環境規制が厳しくなる中で、廃棄物の削減とリサイクルの強化が企業の責任として求められています。溶剤回収装置を導入することで、PRTR(化学物質排出把握管理促進法)やVOC排出規制への対応、環境マネジメントシステムであるISO14000の取得や維持に向けてポジティブな影響を与えることが可能です。
溶剤は再利用可能な貴重な資源であり、溶剤回収装置により溶剤を繰り返し使用することで、天然資源の消費を抑えることができます。こうした環境保全に対する取り組みは、CSR(企業の社会的責任)活動の一環として評価されます。
企業の長期的な利益と、社会的評価を高めることができるほか、エコ意識の高い消費者やパートナーからの支持を得やすくなり、企業のブランド価値の向上が図れます。
溶剤回収装置の設置は、コスト削減や規制対策などに貢献し、長期的な利益にもつながります。当サイトでは、製品別の製造工程に適した溶剤回収装置を用途別にご紹介しています。導入を検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。
化学薬品工場や印刷工場、金属加工工場、塗装工場などさまざまな現場で使用されている溶剤。溶剤回収装置を活用することで、コスト削減、環境配慮、法規制への対応などさまざまな効果を得ることができます。
溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめ。ここでは3つのタイプをご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
VOCガス処理で50年以上の実績があり、粒状活性炭を吸着材に使用した装置で、濃度変動がある環境下でも95%の除去率(※1)を実現。リサイクルにも対応。
トルエン、キシレン、ベンゼン など
95%(※1)
ファインケミカル製品精製等の蒸留工程で実績とノウハウがあり、水蒸気排気に強いドライ式真空ポンプを使用。回収した廃液の引取り・精製にも対応。
1-2ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素 など
95%~(※2)
一本塔の減圧濃縮方式と比べて、蒸気原単位が40%以上節減できる「多重効用蒸留方式」を採用。品質も安定しており、無色で純度99.5%以上のDMFを回収可能。
DMF など
99.5%~(※3)
(※1)参照元:栗本鐵工所公式(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/test-machine.html)
(※2)参照元:日本リファイン公式(https://n-refine.co.jp/service/environment/solpico/)
(※3)参照元:日本化学機械製造(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/18)