ヘプタンは炭素数7の直鎖飽和炭化水素で、化学式はC₇H₁₆、分子量は約100.2g/molのアルカン類に分類されます。常温常圧下では無色透明の液体で、石油に似た特徴的な揮発性を示し、融点は−90.55°C、沸点は98.38°Cと比較的低温度で相変化を起こします。そのため、蒸留や分別操作が容易で、高純度の取得が可能です。密度は0.684g/cm³(20°C)と軽く、蒸気圧は4.6kPa(20°C)と高いため、大気中への放散が速やかに進行します。一方で水への溶解度は非常に低く(約0.0003%)、非極性溶媒としての性質が強いため、水相への移行はほとんど生じません。脂溶性を示す分配係数(log Kₒw)は約4.66であり、生体膜や土壌への吸着性が高い傾向があります。粘度は0.4169mPa·s(20°C)と低く流動性に優れ、屈折率は1.386~1.389(nD,20°C)であることから、分析用標準物質や光学実験用試料としても利用されています。また、n-ヘプタンはオクタン価0の指標物質として燃料の抗ノック性評価に欠かせない基準試料となっています。
ヘプタンは非極性かつ高純度な有機溶媒として、多様な産業用途で幅広く活用されています。まず、塗料や印刷インキの溶剤として用いられ、インキの粘度調整や乾燥性の制御に寄与します。また、接着剤やシーラントのキャリア溶媒として、溶剤の揮発速度をコントロールすることで塗布性や接着強度を改善します。重合用溶媒としてはポリマー合成時の反応媒体や触媒担持剤として機能し、特にゴム製造工程では加硫促進や配合均一化に大きく貢献します。さらに、自動車部品や電子部品の脱脂洗浄においては、高い油脂溶解性と迅速な揮発性が評価されており、半導体前工程や機械部品の洗浄工程でも多く使用されています。
分析化学分野では、ガスクロマトグラフィーのキャリブレーション溶媒や成分抽出溶媒として用いられ、特に脂質や樹脂成分の抽出に優れているため、サンプル前処理や定量分析で重宝されています。医薬品研究や製剤開発のラボ用途においても、レジン類や油脂の抽出プロセスにおける非極性溶媒として活用され、高純度と再現性が求められる実験において欠かせない試薬です。加えて、ガソリンの抗ノック性能評価においてn-ヘプタンはオクタン価0の参照物質とされ、燃料試験での基準試料として重要な役割を担っています。
ヘプタンは揮発性有機化合物(VOC)に分類され、大気中に放出されると窒素酸化物と光化学反応を起こして地表オゾンや光化学スモッグを生成します。また、高い蒸気圧を持つため製造・使用現場からの逸散が懸念されます。水環境では、微生物分解性は認められるものの、加水分解はほとんど進行せず、48時間でのミジンコ類に対するEC₅₀は約1.5 mg/Lと低濃度で影響が現れる報告があります。さらに、分配係数(log Kₒw)が高いため脂溶性が強く、水生生物や水辺の生態系への長期的な生体蓄積が懸念されます。土壌中では疎水性により表層での吸着傾向が強く、地下水汚染リスクは比較的低いものの、土壌微生物によって徐々に分解されます。
法規制面においては、化学物質排出把握管理促進法(PRTR)で第一種指定化学物質に指定され、事業者は排出量と移動量の把握および届出が義務付けられています。大気汚染防止法ではVOC排出施設に対して排出基準の遵守が求められ、都道府県知事からの排出削減要請が行われる場合があります。さらに、消防法上では危険物第4類第1石油類に指定されており、貯蔵・運搬に際して厳格な安全管理が必要です。
ヘプタンを含むVOCの排出削減には、まず製造・取り扱い工程での密閉化が基本となります。具体的には、密閉容器や自動充填装置を導入することで揮発による蒸散を抑制し、作業環境からの大気放散を縮小化します。排ガス中のヘプタンは活性炭吸着装置で効率的に回収でき、吸着したヘプタンは脱着工程を経て再利用される場合があります。
さらに、触媒燃焼法や蓄熱式燃焼法を用いることで、低温でもVOCを分解しながらCO2排出量を抑制する排ガス処理技術が実用化されています。近年ではバイオフィルターや微生物反応槽を用いた生物学的処理技術にも注目が集まっており、水系や土壌中へ流出したヘプタンの分解を促進する手法が研究されています。
また、グリーンケミストリーの視点からは、バイオベース代替溶媒や循環型プロセス設計が進展しており、そもそものヘプタン使用量を削減する取り組みが活性化しています。これらの技術的・運用的対策を組み合わせることで、ヘプタンによる環境への負荷を大幅に低減することが期待されます。
化学薬品工場や印刷工場、金属加工工場、塗装工場などさまざまな現場で使用されている溶剤。溶剤回収装置を活用することで、コスト削減、環境配慮、法規制への対応などさまざまな効果を得ることができます。
溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめ。ここでは3つのタイプをご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
VOCガス処理で50年以上の実績があり、粒状活性炭を吸着材に使用した装置で、濃度変動がある環境下でも95%の除去率(※1)を実現。リサイクルにも対応。
トルエン、キシレン、ベンゼン など
95%(※1)
ファインケミカル製品精製等の蒸留工程で実績とノウハウがあり、水蒸気排気に強いドライ式真空ポンプを使用。回収した廃液の引取り・精製にも対応。
1-2ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素 など
95%~(※2)
一本塔の減圧濃縮方式と比べて、蒸気原単位が40%以上節減できる「多重効用蒸留方式」を採用。品質も安定しており、無色で純度99.5%以上のDMFを回収可能。
DMF など
99.5%~(※3)
(※1)参照元:栗本鐵工所公式(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/test-machine.html)
(※2)参照元:日本リファイン公式(https://n-refine.co.jp/service/environment/solpico/)
(※3)参照元:日本化学機械製造(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/18)