溶剤は医薬品の合成や精製に重要な役割を持っています。しかし、使用後の溶剤をそのまま廃棄すると、規制違反や環境負荷、コスト増加の原因となるため、溶剤の回収と再利用は大切な取り組みです。
本記事では製薬業界における溶剤回収のポイントと、事例について解説します。
製薬業界では、多種多様な溶剤が使用されています。主な溶剤とその用途は以下のとおりです。
メタノールは、無色透明で揮発性の高い液体であり、優れた溶解力を持つため、製薬業界では反応溶媒や抽出溶媒として広く使用されています。メタノールは毒性があるため、取り扱いには注意が必要です。
エタノールは無色透明で揮発性のある液体です。抗菌作用を持つことから、医薬品の製造過程で溶媒や消毒剤として利用されています。水と任意の比率で混合できるため、製剤の溶解や抽出に適しています。
無色透明で揮発性の高い液体で、強い溶解力を持つアセトン。製薬業界では反応溶媒や洗浄剤として使用され、特に樹脂や有機化合物の溶解に適しています。ただし、引火性が高いため、取り扱いには注意が必要です。
ジクロロメタンは、無色透明で甘い香りを持つ液体で、非可燃性でありながら優れた溶解力を持ちます。カフェインの抽出や反応溶媒として利用されますが、毒性があり、長時間の曝露は健康に影響を及ぼす可能性があるため、適切な換気と保護具の使用が推奨されます。
トルエンは、無色透明で特有の芳香を持つ液体で、強力な溶解力を有します。製薬業界では反応溶媒や抽出溶媒として使用され、特に有機化合物の溶解に適合。しかし、神経系への影響が報告されているため、取り扱いには十分な注意が必要です。
これらの溶剤は、医薬品の製造において、反応媒体、洗浄、抽出、精製など多岐にわたる工程で使用されます。
製薬業界では、溶剤の高純度が製品品質に直結するため、回収した溶剤の精製度を高く保つことが求められます。高度な蒸留技術や膜分離技術を活用し、溶剤の純度を維持することが重要です。
製薬業界にとって、使用済みの有機溶剤の回収、再資源化は欠かせない取り組みです。環境への負荷を軽減することはもちろん、国内では溶剤回収に関してVOC規制や廃物処理法、大気汚染防止法なども制定されており、事業者は各法規制を踏まえた対応を行う必要があります。
溶剤の回収や再利用は、廃棄物処理費用の削減や資源の有効活用につながります。溶剤回収装置で回収した溶剤は多目的な用途で利用でき、社内での再利用や他社への売却も可能。導入時の初期費用がかかる場合でも、長期的な目線で経済的なメリットが大きいと言えるのです。
これらのポイントを踏まえ、製薬業界における溶剤回収システムの導入、運用を検討してみてください。
有機溶剤全般の取り扱いに関する事例として、日本化学工業株式会社のクロロホルムの回収の取り組みを紹介します。
クロロホルムは「医薬中間体」の製造において、反応触媒として使用されている化学物質です。同社では、製品開発の初期段階から溶剤の回収を実施していたものの、当時使用していた精留塔の能力が十分ではなく、再利用可能なクロロホルムの回収量に課題がありました。
そこで、2002年度に性能を向上させた精留塔を新たに設置し、クロロホルムの回収および再利用の効率を高める取り組みに着手。精留塔は精製・分離に特化した装置であり、溶剤回収装置の一部として組み込まれることもあります。
新たな精留塔の稼働当初は、最適な運転条件を見出すために試験を繰り返しながら操業を行っていたため、一時的に回収率が低下することもありました。しかし、現在では投入したクロロホルムの約70%を回収することに成功しています。
※参照元:愛知県公式Webサイト[PDF](https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/487834.pdf)
溶剤は医薬品の合成や精製に必要ですが、使用後に廃棄すると環境負荷やコスト増加の原因となります。そのため、溶剤の回収と再利用が欠かせません。
溶剤回収は外部委託するか、社内で回収装置を設置するかの選択肢があります。溶剤の購入量や廃棄物処理費用の削減など、長期的なメリットを目的とする場合は、自社内への導入を検討してみてください。
溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめです。当サイトでは、反応・抽出、脱脂洗浄、乾燥など、さまざまな製造工程に適した溶剤回収装置を、用途別にご紹介しています。装置の導入をご検討の方はぜひご参考にしてください。
化学薬品工場や印刷工場、金属加工工場、塗装工場などさまざまな現場で使用されている溶剤。溶剤回収装置を活用することで、コスト削減、環境配慮、法規制への対応などさまざまな効果を得ることができます。
溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめ。ここでは3つのタイプをご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
VOCガス処理で50年以上の実績があり、粒状活性炭を吸着材に使用した装置で、濃度変動がある環境下でも95%の除去率(※1)を実現。リサイクルにも対応。
トルエン、キシレン、ベンゼン など
95%(※1)
ファインケミカル製品精製等の蒸留工程で実績とノウハウがあり、水蒸気排気に強いドライ式真空ポンプを使用。回収した廃液の引取り・精製にも対応。
1-2ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素 など
95%~(※2)
一本塔の減圧濃縮方式と比べて、蒸気原単位が40%以上節減できる「多重効用蒸留方式」を採用。品質も安定しており、無色で純度99.5%以上のDMFを回収可能。
DMF など
99.5%~(※3)
(※1)参照元:栗本鐵工所公式(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/test-machine.html)
(※2)参照元:日本リファイン公式(https://n-refine.co.jp/service/environment/solpico/)
(※3)参照元:日本化学機械製造(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/18)