吸着式溶剤回収装置

吸着式溶剤回収装置は、VOCを含む排ガスから溶剤を効率的に回収・再利用するための装置です。主に活性炭や特殊な吸着材を用い、排ガス中の有害物質を除去し、環境規制への対応やコスト削減を実現。揮発性の高い溶剤に適しており、さまざまな産業分野で活用されています。

吸着式溶剤回収装置とは?

溶剤回収装置の吸着式は、廃ガス中の揮発性有機化合物(VOCを吸着材に吸着させ、その後脱着して溶剤を回収するシステムです。主に 活性炭などの吸着材を使用し、溶剤を高い効率で回収します。

吸着式溶剤回収装置の仕組み

吸着式では、主に以下のプロセスで溶剤を再生します。

  • 吸着プロセス:排ガスを吸着材(活性炭など)に通過させ、溶剤ガスを吸着材の表面に捕集します。
  • 脱着プロセス:吸着材に熱や蒸気を供給して、吸着された溶剤を脱着。再びガス状となります。
  • 凝縮・回収:脱着した溶剤ガスを冷却し、液体状態に凝縮させます。その後、分離器で水分と溶剤を分離ます。

一連のプロセスにより、排ガス中の有機溶剤を効果的に除去し、回収した溶剤を再利用することが可能となります。プロセスは機種やメーカーによって異なるため、自社の溶剤に適したプロセスをメーカーに相談してみてください。

吸着式装置の主な特徴

VOC(揮発性有機化合物)排出量の削減

吸着式溶剤回収装置は、排ガス中のVOCを高効率で吸着し、再利用可能な状態で回収。活性炭を使用した吸着式装置では、VOCを95%以上(※)回収できるというデータもあります。

吸着されたVOCは、適切な条件下で脱着され、精製後に再利用が可能です。これにより、溶剤の購入費用を削減し、廃棄物の発生も抑制できます。

省エネルギー設計

高い吸着能力を持つ活性炭などの吸着材を使用するため、少量の吸着材で効率的な溶剤回収が可能です。エネルギー消費を抑える設計が施されいる吸着式装置を選定すれば、さらなる運用コストの削減にもつながります。

また、従来の溶剤回収方法では蒸気加熱や高温処理が必要でしたが、吸着式装置は常温または低温の運転。これにより、装置のサイズやエネルギー消費を大幅に削減できます。

吸着式溶剤回収装置のメリット

廃棄コストの削減

吸着式溶剤回収装置は乾式システムを採用しているため、排水処理が不要です。従来の蒸気脱着式装置では、溶剤を水蒸気で脱着する際に大量の排水が発生し、その処理にコストと手間がかかります。一方、吸着式装置は水蒸気を使用せず、真空ポンプによる減圧下でVOCを脱着する方法です。

この乾式プロセスによって排水の発生が抑制され、排水処理の手間とコストを削減し、環境負荷の低減にも寄与します。

操作やメンテナンスなどが比較的容易

構造が比較的シンプルで、操作やメンテナンスが容易である点も特徴です。多くの吸着式装置はタッチパネル式のインターフェースを採用しているため、直感的な操作が可能。作業者の負担が軽減されます。さらに自動化機能がある装置を利用すれば、吸着と脱着の切り替えが自動で行われるので、操作の手間がかかりません。

また、吸着式装置はブロワなどの回転機器以外に機械的駆動部が少ないため、メンテナンスも容易です。ダウンタイムの短縮や作業の効率化といった効果が期待できます。

このほかにも、溶剤回収装置の導入によって環境規制への対応強化や、CRS(企業の社会的責任)に評価されるなどのメリットがあります。

吸着式溶剤回収装置の選定ポイント

吸着式溶剤回収装置を選定する際には、以下のポイントを考慮しましょう。

処理能力の適正な選定

排ガスの流量や溶剤の濃度に応じた装置容量を選ぶことは、装置の性能を最大限に活かすための重要なポイントです。

処理能力が過小であれば、十分なVOC除去ができず、過大であれば初期投資や運用コストが増大します。適切な処理能力を選定するためには、排ガスの流量、溶剤の種類と濃度、運転時間などのデータを詳細に分析し、装置メーカーに相談しましょう。

エネルギー効率

装置の運転に必要なエネルギー消費量は、長期的な運用コストに影響します。再生工程での熱や蒸気の使用量が多いとエネルギーコストも増加しますが、省エネルギー設計が施された装置を選ぶことで、運用コストの削減が可能です。

特に真空脱着方式の装置は、蒸気を使用せずに溶剤を回収できるため、エネルギー消費を抑制できます。

メンテナンス性と操作性

吸着材の交換頻度やメンテナンスの容易さを確認し、運用コストやダウンタイムを最小限に抑える設計かを検討しましょう。

装置の設計によって、メンテナンスの手間は大きく変化します。例えば、活性炭吸着方式の溶剤回収装置は、構造がシンプルで機械的な駆動部が少ないため、メンテナンスが比較的容易とされています。

また、近年はVOCオンラインモニターや自動運転機能が搭載されている装置も多いです。この機能により、24時間体制で装置の状態を監視し、異常時には迅速に対応できるため、メンテナンスの効率化が図れます。

吸着式溶剤回収装置の脱着方式

吸着式溶剤回収装置には、脱着方式によって仕組みや適した溶剤が異なります。それぞれの特徴をまとめました。

蒸気脱着式

  • 仕組み:活性炭などの吸着剤に溶剤を吸着させ、その後、蒸気を用いて脱着・回収します。
  • 特徴:多様な溶剤に対応。高い脱着効率を持つほか、回収した溶剤は安定性が高く、再利用が容易です。
  • 適した溶剤(例):塩素系溶剤(塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン)フロン系溶剤、炭化水素系溶剤(非水溶性および水溶性)

真空脱着式

  • 仕組み:活性炭に吸着した溶剤を、真空環境下で脱着・回収します。
  • 特徴:蒸気を使用しないため、排水処理が不要。装置の小型化が可能です。
  • 適した溶剤(例):高濃度・小風量の排ガス中の溶剤、水溶性溶剤を含む多種多様な溶剤

乾式脱着式(VPSA方式など)

  • 仕組み:不活性ガス(窒素ガスなど)を用いて、吸着剤から溶剤を脱着・回収します。
  • 特徴:排水が発生しないため、排水処理設備が不要で、メンテナンスしやすいです。
  • 適した溶剤(例):水溶性溶剤を含む多様な溶剤

各方式には、それぞれ適用条件があります。処理対象の溶剤の種類、濃度、排ガス量、環境規制、コストなどを考慮して、自社に合う装置を選択してください。

溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめです。当サイトでは、吸着式を含む溶剤回収装置を用途別にご紹介しています。装置の導入をご検討の方はぜひご参考にしてください。

吸着式溶剤回収装置のまとめ

吸着式溶剤回収装置の導入は、VOC排出規制への対応や環境保護、そしてコスト削減を同時に実現する有効な手段です。適切な装置の選定と運用により、廃棄コストの削減、環境負荷の軽減、操業効率の向上といった多くのメリットを享受できます。

導入を検討中の場合は、自社の排ガス量や溶剤使用状況を見直してみてください。加えて、当記事で紹介した選定ポイントを考慮することで、導入目的や運用環境に適した溶剤回収装置を選択でき、長期的なコスト削減と効率化が実現可能です。

自社で取り扱う溶剤が吸着式に適しているかわからない場合は、回収装置を取り扱う企業に問い合わせてみましょう。

【用途別】おすすめの溶剤回収装置3選

化学薬品工場や印刷工場、金属加工工場、塗装工場などさまざまな現場で使用されている溶剤。溶剤回収装置を活用することで、コスト削減、環境配慮、法規制への対応などさまざまな効果を得ることができます。
溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめ。ここでは3つのタイプをご紹介するので、ぜひ参考にしてください。

洗浄・脱脂・乾燥工程で発生する
VOCガスの溶剤回収なら
蒸気脱着式溶剤回収装置
(栗本鐵工所)
蒸気脱着式溶剤回収装置(栗本鐵工所)
引用元:栗本鐵工所
(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/youzai.html)
おすすめの理由

VOCガス処理で50年以上の実績があり、粒状活性炭を吸着材に使用した装置で、濃度変動がある環境下でも95%の除去率(※1)を実現。リサイクルにも対応。

該当する主な物質

トルエン、キシレン、ベンゼン など

除去率(目安)

95%(※1)

抽出・精製・濃縮工程で発生する
塩素系廃液の溶剤回収なら
排水処理装置 ソルピコ
(日本リファイン)
排水処理装置 ソルピコ(日本リファイン)
引用元:日本リファイン
(https://n-refine.co.jp/service/environment/)
おすすめの理由

ファインケミカル製品精製等の蒸留工程で実績とノウハウがあり、水蒸気排気に強いドライ式真空ポンプを使用。回収した廃液の引取り・精製にも対応。

該当する主な物質

1-2ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素 など

回収率(目安)

95%~(※2)

反応・成形・合成工程で発生する
DMF排水の溶剤回収なら
DMF回収装置
(日本化学機械製造)
DMF回収装置(日本化学機械製造)
引用元:日本化学機械製造
(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/56)
おすすめの理由

一本塔の減圧濃縮方式と比べて、蒸気原単位が40%以上節減できる「多重効用蒸留方式」を採用。品質も安定しており、無色で純度99.5%以上のDMFを回収可能。

該当する主な物質

DMF など

回収率(目安)

99.5%~(※3)

(※1)参照元:栗本鐵工所公式(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/test-machine.html
(※2)参照元:日本リファイン公式(https://n-refine.co.jp/service/environment/solpico/
(※3)参照元:日本化学機械製造(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/18