VOC規制の基本と対応策

VOC(揮発性有機化合物)は塗装・印刷・接着・洗浄など幅広い工程で使用されており、光化学オキシダントやPM2.5の生成原因とも関わっています。大気汚染防止法では「大気中で気体となる有機化合物」の総称として扱われており、法律で定められた施設には排出基準や届出、測定・記録の義務が課されています。また、すべての事業者には自主的な排出抑制も求められています。本記事では、制度の概要から現場で求められる対応までを、実務に役立つ形で解説いたします。

VOC規制とは?大気汚染防止法の概要

VOCとは?規制対象となる物質の定義

VOCは Volatile Organic Compounds(揮発性有機化合物) の略称です。大気汚染防止法では「大気中に排出・飛散した際に気体となる有機化合物」と定義されています。常温で揮発しやすい物質だけでなく、排出温度が高い場合には沸点が比較的高い物質も対象となります。代表的な例としてはトルエン、キシレン、酢酸エチルなどが挙げられます。一方で、メタンやフロン類は規制対象外とされています。

規制対象となる主なVOC(揮発性有機化合物)

大気汚染防止法におけるVOCは「揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物」の総称です。代表的な物質には以下のようなものがあります。

物質名 主な用途
トルエン 塗料、インキ、接着剤、洗浄剤
キシレン 塗料、インキ、農薬
酢酸エチル 塗料、インキ、接着剤
メチルエチルケトン (MEK) 塗料、接着剤、インキ
イソプロピルアルコール (IPA) 洗浄剤、消毒剤、インキ
ジクロロメタン(塩化メチレン) 洗浄剤、剥離剤
n-ヘキサン 洗浄剤、抽出剤

なぜVOCが規制されるのか?その目的と背景

VOCは大気中で反応し、光化学オキシダントや浮遊粒子状物質(SPM、PM2.5)を生成します。これらは人の健康や大気環境に悪影響を及ぼす要因となります。国内では大気環境改善を目的に制度が整備され、法改正以降は全国的な排出抑制が進められています。事業者にとっては法令遵守に加え、悪臭や作業環境の改善、溶剤使用量削減によるコスト低減といった効果も期待できます。

VOC規制の基本原則「法規制」と「自主的取組」

VOC規制は二つの柱で構成されています。ひとつは、法で定められた「VOC排出施設」に対する届出・排出基準・測定等の義務です。もうひとつは、すべての事業者に求められる自主的な排出・飛散の把握と抑制です。自主的な取組には、低VOC原材料の採用や工程改善、VOC処理設備の導入などが含まれ、全体的な削減を目指すことが求められています。

VOC規制の対象となる施設と排出基準

届出が必要な「揮発性有機化合物排出施設」とは

対象となるのは塗装施設や乾燥施設、貯蔵タンクなどで、一定規模以上のものが該当します。これらの施設を新設または構造等を変更する場合には、工事着手の60日前までに所管機関への届出が必要です。使用廃止や承継、名称変更の際にも所定の様式による手続きが義務付けられています。

施設の種類と規模ごとの排出基準

施設区分ごとに、排出口でのVOC濃度基準が設定されています。対象となる施設は基準の遵守が求められるとともに、年1回以上の測定と記録保存が義務付けられています。現場では運転条件や換気量、希釈の有無、捕集効率などが基準適合に大きく関わるため、日常的に管理することが重要です。

罰則規定と罰金について

違反の態様によっては行政命令や罰則の対象となります。届出を怠った設置や変更、命令違反、虚偽報告、測定・記録義務違反などが典型的な事例です。罰金や処分の内容は違反内容によって異なりますが、いずれの場合もリスク回避のためには届出・測定・記録の確実な実施が求められます。

VOC規制における事業者の義務と対応策

届出義務:施設設置や変更時に必要な手続き

対象施設を設置または構造変更する場合は、工事着手60日前までの届出が必要です。使用廃止や承継、名称変更の際にも届出が義務付けられています。設備仕様や排出口位置、管理方法を計画段階で整理し、自治体が定める様式に沿って正確に申請することが重要です。

測定・記録義務:定期的なVOC濃度の測定方法と記録保存

法律では、年1回以上の自主測定と、測定結果の3年間保存が求められています。測定は告示やJIS規格に基づく方法で行い、測定者や日時、測定方法、結果、運転条件などを記録します。外部機関による計量証明書を利用する方法も一般的です。

自主的取組の重要性

法規制の対象外の工程も含めて、排出の見える化や社内基準の設定を進めることが安定した低減につながります。結果として溶剤購入量や廃棄量の削減、作業環境改善など多面的な効果が期待できます。

具体的な排出抑制対策の事例

印刷業におけるH-UV印刷機とVOCフリー洗浄剤の導入

株式会社研文社の尼崎工場では、「関西No.1の環境配慮型印刷会社」を掲げ、VOC排出抑制に積極的に取り組んでいます。2012年の工場竣工時にH-UV印刷機を導入し、短時間乾燥による省エネルギー化とVOC排出削減を実現しました。

さらに、インキメーカーと共同でベジタブルオイルインキを開発し、石油系溶剤に依存しない高品質印刷を可能にしました。また、従来の洗浄液をVOCフリーの代替品に切り替え、現場での実証やメーカーへの改良提案を繰り返すことで、洗浄性と作業環境の改善を両立させています。こうした取り組みにより、同工場のVOC排出量は基準値の1/100に抑えられ、印刷産業環境優良工場として表彰される成果を上げています。

※参照元:近畿経済産業局
https://www.kansai.meti.go.jp/3-6kankyo/R4fy/jirei-2.pdf

金属めっきにおけるトリクロロエチレン洗浄の最適化

株式会社土井鍍金(大阪市)では、高精度なめっき処理に欠かせないトリクロロエチレン洗浄のVOC排出抑制に取り組んでいます。まず、洗浄が本当に必要な製品を精査し、煮沸脱脂や超音波浸漬脱脂などのアルカリ洗浄へ一部移行しました。

さらに、2011年には密閉式の全自動洗浄設備を導入し、蒸発や漏えいを大幅に削減しています。これにより、トリクロロエチレン使用量は2010年比で45%削減を達成しました。加えて、廃液を有価で回収業者に引き渡してリサイクルすることで、処理コスト削減と環境負荷低減にも成功しています。

※参照元:近畿経済産業局
https://www.kansai.meti.go.jp/3-6kankyo/R4fy/jirei-9.pdf

IoTを活用した工業塗装自動化システムの導入

久保井塗装株式会社(埼玉県狭山市)では、創業当初から環境対策に力を入れてきた経験を活かし、2018年にIoTを活用した工業塗装自動化システムを独自開発しました。このシステムは、塗料使用量やVOC排出量を自動集計できる機能を備え、作業効率の向上とヒューマンエラーの排除を実現しています。

また、独自ノウハウである「エコ塗装」を組み合わせることで、塗料使用量を30〜50%削減し、産業廃棄物やVOCの大幅な低減につなげています。さらに、定期的な勉強会による人材育成やトレーサビリティ確保の仕組みも整備し、顧客からの信頼獲得や新卒採用にも成功しています。これらの取組により、生産性向上と環境負荷低減の両立を実現しています。

※参照元:近畿経済産業局
https://www.kansai.meti.go.jp/3-6kankyo/R4fy/jirei-6.pdf

VOCに関連するその他の主要な法律

VOC対策は大気汚染防止法だけで完結するものではありません。使用する物質の種類や取扱量、作業環境によっては、労働安全衛生法や化管法(PRTR制度)など他の法令にも対応する必要があります。ここでは、VOCに関連する代表的な法律の概要を解説します。

労働安全衛生法(有機溶剤中毒予防規則など)

労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保することを目的とした法律です。VOCの中にはトルエンやキシレン、トリクロロエチレンなど、有機溶剤中毒予防規則の対象物質に該当するものがあります。

これらの物質を一定量以上取り扱う場合、局所排気装置の設置、作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施、作業主任者の選任などが義務付けられます。大気への排出抑制だけでなく、作業環境中の濃度管理も重要であり、工場内外の両面からの管理体制構築が求められます。

化管法(PRTR制度)

化学物質排出把握管理促進法(いわゆる化管法)は、一定量以上の対象化学物質を取り扱う事業者に対し、環境中への排出量および廃棄物としての移動量の把握と届出を義務付ける制度です。これがPRTR制度(Pollutant Release and Transfer Register)です。

トルエンやキシレンなど多くのVOCが第一種指定化学物質に該当しており、年間取扱量が基準を超える場合は届出が必要となります。排出抑制対策を講じることは、単に法令遵守だけでなく、企業の環境情報開示や社会的責任(CSR)への対応にもつながります。

まとめ

VOC規制は、定義・対象・法規制と自主的取組の両面での理解が欠かせません。対象施設では届出・排出基準・測定・記録を確実に実施し、工程全体では原材料の選択、運転条件の改善、回収・処理装置の導入によって削減を進めることが重要です。法令の最新情報や自治体の案内を定期的に確認し、計画的に対応することが事業継続に直結します。

【用途別】おすすめの溶剤回収装置3選

化学薬品工場や印刷工場、金属加工工場、塗装工場などさまざまな現場で使用されている溶剤。溶剤回収装置を活用することで、コスト削減、環境配慮、法規制への対応などさまざまな効果を得ることができます。
溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめ。ここでは3つのタイプをご紹介するので、ぜひ参考にしてください。

洗浄・脱脂・乾燥工程で発生する
VOCガスの溶剤回収なら
蒸気脱着式溶剤回収装置
(栗本鐵工所)
蒸気脱着式溶剤回収装置(栗本鐵工所)
引用元:栗本鐵工所
(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/youzai.html)
おすすめの理由

VOCガス処理で50年以上の実績があり、粒状活性炭を吸着材に使用した装置で、濃度変動がある環境下でも95%の除去率(※1)を実現。リサイクルにも対応。

該当する主な物質

トルエン、キシレン、ベンゼン など

除去率(目安)

95%(※1)

反応・合成・洗浄工程で発生する
溶剤の排水回収なら
排水処理装置 ソルピコ
(日本リファイン)
排水処理装置 ソルピコ(日本リファイン)
引用元:日本リファイン
(https://n-refine.co.jp/service/environment/)
おすすめの理由

有機溶剤精製等の蒸留工程で実績とノウハウがあり、高回収率・省エネルギー型で低ランニングコストを実現。回収した廃液の引取り・精製にも対応。

該当する主な物質

水よりも沸点が低い、または、水と共沸点を持つ溶剤(アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類 など)

回収率(目安)
                               

99%~(※2)

反応・成形・合成工程で発生する
DMF排水の溶剤回収なら
DMF回収装置
(日本化学機械製造)
DMF回収装置(日本化学機械製造)
引用元:日本化学機械製造
(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/56)
おすすめの理由

一本塔の減圧濃縮方式と比べて、蒸気原単位が40%以上節減できる「多重効用蒸留方式」を採用。品質も安定しており、無色で純度99.5%以上のDMFを回収可能。

該当する主な物質

DMF など

回収率(目安)

99.5%~(※3)

(※1)参照元:栗本鐵工所公式(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/test-machine.html
(※2)参照元:日本リファイン公式(https://n-refine.co.jp/service/environment/solpico/)※処理対象・運転条件等で異なる。
(※3)参照元:日本化学機械製造(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/18