塗料やコーティング製品の製造現場では、粘度の調整や乾燥促進、塗膜の特性調整などのために溶剤の使用が欠かせません。溶剤回収装置を使用することで、製造後や塗装後に回収と再利用が可能になるため、導入している企業が多いです。
本記事では、塗料・コーティング製造における溶剤回収のポイントと、事例について解説します。
塗料やコーティング製造では、多様な種類の溶剤が活用されています。主な溶剤の特徴と用途をまとめました。
シンナーは、油性塗料や溶剤系塗料に使用される溶剤の総称で、トルエンやキシレンなどの有機溶剤を含みます。これらの溶剤は強い溶解力を持ち、塗料の粘度調整や乾燥促進に寄与。ただし、有機溶剤の強い臭いがするため、換気や作業環境の管理が重要です。
トルエンは強い溶解力を持つ有機溶剤で、塗料の粘度調整や乾燥促進に使用されます。特に、金属やプラスチックなど硬い素材に対して良好な密着性を示し、耐久性の高い塗膜を形成するのが特徴。乾燥時間が比較的短く、強力な溶解力があるため、素早く塗布作業を進めることができます。
キシレンもトルエンと似た特性を持つ溶剤で、塗料の粘度調整や乾燥促進に使用されるケースが多いです。キシレンはトルエンよりも揮発性が低く、作業中の臭気を抑える効果があります。金属やプラスチックの表面に優れた密着性を発揮し、安定した塗膜を作り出すため、特に長時間かかる塗装工程で活用されます。
酢酸エチルはエステル系溶剤。アルコール系溶剤よりも揮発性が低く、金属や木材のような素材に良好な密着性を示します。また、強い臭いが少なく、作業環境を快適に保ちながら使用することが可能。乾燥時間の調整がしやすいのも特徴です。
アルコール系溶剤であるメタノールも、塗料の粘度調整や乾燥促進に使用されます。金属やプラスチック、木材など幅広い素材に塗装可能で、下地との密着性が高いのが特徴です。
これらの溶剤は、製品の特性や用途に応じて選択され、適切な組み合わせで使用されます。
社内で溶剤の回収や再利用を行うためには、溶剤回収装置を導入する必要があります。溶剤回収装置は「バッチ式」と「連続式」の2種類があるので、塗料・コーティング製造を行う企業が装置を選ぶ際には、自社の生産規模や運用体制に応じて選択しましょう。
バッチ式はタンクに一度に充填した廃溶剤を処理する方式で、小規模な生産や多品種少量生産向きです。一方、連続式はタンク内の廃溶剤の減少に応じて自動的に補充し、連続的に処理を行う方式で、大量生産や長時間の運転が求められる現場に適しています。
塗料・コーティング製造では、揮発性有機化合物(VOC)の排出削減が求められています。
日本塗料工業会は、VOC排出抑制のためのガイドラインを策定し、塗料メーカーとユーザーが協力して経済的負担を最小限に抑えつつ、効果的な排出抑制を図ることを推奨。具体的な対策として、低VOC塗料の開発・使用や、塗装工程での排出抑制技術の導入などが挙げられます。
溶剤の回収や再利用は、廃棄物処理費用の削減や資源の有効活用につながります。溶剤回収装置で回収した溶剤は多目的な用途で利用でき、社内での再利用や他社への売却も可能。導入時の初期費用がかかる場合でも、長期的な目線で経済的なメリットが大きいと言えるのです。
三菱ケミカルインフラテックの上田事業所では、塗装工程で使用するシンナーの購入コストと廃棄費用の削減を目的に、コーベックスの真空蒸留回収装置「CA-103V」を導入しました。この装置により、使用済みシンナーの約90%をリサイクルし、再利用しています。
導入から8年間、装置の故障はなく、操作も簡単で、ボタン一つで作動するため、現場での負担も軽減されました。装置導入費用は約1年で回収でき、経費削減にも貢献しています。この取り組みは、環境負荷の低減とコスト削減の両立を実現する好例といえるでしょう。
※参照元:コーベックス公式HP(https://www.kobex.co.jp/donyujisseki/181/)
塗料・コーティング製造における溶剤回収は、環境保護とコスト削減の両面で重要なポイントです。適切な装置の導入や法令遵守といった基礎的な取り組みも欠かせません。
溶剤回収は外部委託するか、社内で回収装置を設置するかの選択肢があります。溶剤の購入量や廃棄物処理費用の削減など、長期的なメリットを目的とする場合は、自社内への導入を検討してみてください。
溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめです。当サイトでは、反応・抽出、脱脂洗浄、乾燥など、さまざまな製造工程に適した溶剤回収装置を、用途別にご紹介しています。装置の導入をご検討の方はぜひご参考にしてください。
化学薬品工場や印刷工場、金属加工工場、塗装工場などさまざまな現場で使用されている溶剤。溶剤回収装置を活用することで、コスト削減、環境配慮、法規制への対応などさまざまな効果を得ることができます。
溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめ。ここでは3つのタイプをご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
VOCガス処理で50年以上の実績があり、粒状活性炭を吸着材に使用した装置で、濃度変動がある環境下でも95%の除去率(※1)を実現。リサイクルにも対応。
トルエン、キシレン、ベンゼン など
95%(※1)
ファインケミカル製品精製等の蒸留工程で実績とノウハウがあり、水蒸気排気に強いドライ式真空ポンプを使用。回収した廃液の引取り・精製にも対応。
1-2ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素 など
95%~(※2)
一本塔の減圧濃縮方式と比べて、蒸気原単位が40%以上節減できる「多重効用蒸留方式」を採用。品質も安定しており、無色で純度99.5%以上のDMFを回収可能。
DMF など
99.5%~(※3)
(※1)参照元:栗本鐵工所公式(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/test-machine.html)
(※2)参照元:日本リファイン公式(https://n-refine.co.jp/service/environment/solpico/)
(※3)参照元:日本化学機械製造(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/18)