化学吸収式溶剤回収装置

溶剤回収装置にはさまざまな種類があります。こちらの記事ではその中のひとつである化学吸収式溶剤回収装置を紹介します。化学吸収式溶剤回収装置の基本概要から、仕組みと原理、他の溶剤回収方式との違いなどをまとめていますので、溶剤回収装置の導入を検討されている方は参考にしてください。

化学吸収式溶剤回収装置の基本概要

化学吸収式溶剤回収装置とは、揮発した有機溶剤について化学反応を利用して吸収液に取り込み、再度回収して再利用可能にすることを目的とした装置です。例えば、印刷会社や塗装工場における排気中のVOC回収や溶剤の回収を行うことにより、産業プロセスにおいて溶剤の再利用を目的としていることに加えて、大気汚染防止も目的としています。

化学吸収式溶剤回収装置は、下記のような構成となっています。

  • 吸収塔
    排ガス中のVOCを吸収液(特定の溶剤・アミン系化合物など)と接触させることによって、化学反応によりVOCを選択的に吸収します。
  • 再生塔
    VOCを吸収した吸収液を加熱または減圧することによって、VOCを脱離・分離します。分離されたVOCは高い純度で回収されるため、再利用が可能となります。
  • 回収システム
    脱離されたVOCが、冷却・凝縮により液体状態で回収されます。
  • 循環システム
    再生された吸収液は冷却され、再度吸収塔に戻され循環使用されます。

化学吸収方式の仕組みと原理

「化学吸収方式」とは、対象となるガス成分と吸収液との間に起こる化学反応を利用し、特定の成分を選択的に分離・回収することを目的とした技術です。物理的に融解・吸着を行うのとは異なっており、化学吸収方式は化学結合を形成して高い選択性・回収効率を実現している点が特徴といえます。

基本的な化学反応プロセスは以下の通りです。

  • 吸収過程:VOCやCO2などの対象ガスと吸収液が接触すると、化学反応によって吸収液に取り込まれる
  • 脱離過程:成分を吸収した吸収液を加熱または減圧することによって化学結合を切断。吸収した成分を放出させる
  • 循環利用:脱離後の吸収液は冷却されたのちに再度吸収工程に戻されるため繰り返し使用することが可能

また、化学吸収方式を用いる場合には、「どの吸収液を使用するか」が非常に重要となります。対象のガス成分と選択的に反応する吸収液を使用する必要があります。例えばCO2の化学吸収を行いたい場合はアミン系吸収液が使用されますし、特定のVOCに対しては選択性の高い溶剤を選定することになります。

他の溶剤回収方式との比較

物理吸収式との違い

化学回収式も物理回収式も、ガス成分の分離と回収を行う際に使用される方法ですが、化学吸収式は反応性の吸収液を使用し、化学反応を利用することでガスを吸収します。その後、加熱または減圧することで化学結合を切断し、吸収した成分を放出します。強い選択性と高い吸収能力強みとする方法です。

物理吸収式の場合は、ガスが物理的に吸収液に溶解する現象を利用してガスを回収します。高圧環境下にて溶解させて、再生時にはフラッシュ蒸発などを行うことから加熱が不要となっています。高圧条件で効率が上がりますが、低い濃度の気体の場合、物理吸収式を使用すると非効率となる面があります。

冷却凝縮式との違い

低音で溶剤を凝縮し、液体として回収する冷却凝縮式は、比較的高濃度のVOCに適した方法です。冷却凝縮式溶剤回収装置には、排気ガスを加圧・急冷する「加圧深冷凝縮方式」、ステンレスコンデンサーと低音冷凍機にて冷却する「低温冷却凝縮方式」、冷却による溶剤回収とVOC対策を同時に行う「高効率冷却+脱臭一体型装置」といった形でさまざまな種類があります。

この方式は、低濃度の場合は効率が悪くなる傾向がありますが、化学吸収式の場合は低濃度から高濃度まで幅広く対応可能という違いがあります。

化学吸収式のメリット・デメリット

化学吸収式は、高い選択性を持つことがメリットのひとつです。特定のガス成分に対して化学的親和性のある吸収液の選択により、対象の成分のみを選択的に回収できるようになります。さらに、化学反応を利用するため低濃度のガスからも効率的に回収できる点や、回収した成分を高純度で取り出し可能なので、再利用ができる点もポイントです。

また、吸収液は劣化しない限りは繰り返し使用できるため、ランニングコストを抑えられる面も。ただし、何度も使用できる分、吸収液の管理が必要となる点はデメリットに感じられる部分でもあります。

導入時のポイントと選び方

ガス成分の分離や回収に用いられている技術にはいくつかありますが、上記でご紹介している通り原理や特性には大きな違いがあります。そのため、溶剤回収装置の導入にあたっては導入コストやランニングコストについて確認する、処理量対象となるガス成分など、さまざまな点についてあらかじめ確認することが非常に重要であるといえます。

また、溶剤回収装置を導入する際には、ベンダー(メーカー)を選定する必要があります。選定時には、複数のベンダーやメーカーから見積もりを取得し、コストはもちろん性能や納期、アフターサービスといった点で比較検討を行ってください。中には、現場を訪問してヒアリングを行う・テスト期による性能検証を行った上でニーズに合った装置の提案を行うところもあります。さまざまな面から比較して信頼できるベンダーを選ぶことにより、装置を回収した後のサポートや保守についてもスムーズに進められます。

また溶剤回収装置は適切な運用を行わなかった場合には故障につながる、重大な事故を引き起こす可能性も考えられます。安全に運用を続けていくためにも、自動停止装置が備わっている装置を選択する、メンテナンスが容易に行えるといった部分にも注目することが大切です。

【用途別】おすすめの溶剤回収装置3選

化学薬品工場や印刷工場、金属加工工場、塗装工場などさまざまな現場で使用されている溶剤。溶剤回収装置を活用することで、コスト削減、環境配慮、法規制への対応などさまざまな効果を得ることができます。
溶剤回収装置は、装置によって仕組みや処理の方法、対応可能な溶剤などが異なるため、現場の用途に合わせて選ぶのがおすすめ。ここでは3つのタイプをご紹介するので、ぜひ参考にしてください。

洗浄・脱脂・乾燥工程で発生する
VOCガスの溶剤回収なら
蒸気脱着式溶剤回収装置
(栗本鐵工所)
蒸気脱着式溶剤回収装置(栗本鐵工所)
引用元:栗本鐵工所
(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/youzai.html)
おすすめの理由

VOCガス処理で50年以上の実績があり、粒状活性炭を吸着材に使用した装置で、濃度変動がある環境下でも95%の除去率(※1)を実現。リサイクルにも対応。

該当する主な物質

トルエン、キシレン、ベンゼン など

除去率(目安)

95%(※1)

抽出・精製・濃縮工程で発生する
塩素系廃液の溶剤回収なら
排水処理装置 ソルピコ
(日本リファイン)
排水処理装置 ソルピコ(日本リファイン)
引用元:日本リファイン
(https://n-refine.co.jp/service/environment/)
おすすめの理由

ファインケミカル製品精製等の蒸留工程で実績とノウハウがあり、水蒸気排気に強いドライ式真空ポンプを使用。回収した廃液の引取り・精製にも対応。

該当する主な物質

1-2ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素 など

回収率(目安)

95%~(※2)

反応・成形・合成工程で発生する
DMF排水の溶剤回収なら
DMF回収装置
(日本化学機械製造)
DMF回収装置(日本化学機械製造)
引用元:日本化学機械製造
(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/56)
おすすめの理由

一本塔の減圧濃縮方式と比べて、蒸気原単位が40%以上節減できる「多重効用蒸留方式」を採用。品質も安定しており、無色で純度99.5%以上のDMFを回収可能。

該当する主な物質

DMF など

回収率(目安)

99.5%~(※3)

(※1)参照元:栗本鐵工所公式(https://www01.kurimoto.co.jp/co-lab/about/test-machine.html
(※2)参照元:日本リファイン公式(https://n-refine.co.jp/service/environment/solpico/
(※3)参照元:日本化学機械製造(https://www.nikkaki.co.jp/products/detail/18